読了

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈上〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

疾走!千マイル急行〈下〉 (ソノラマ文庫)

鉄道と言う媒体はそれ自体に郷愁と旅情をかき立てる力を秘めていると思う。
東京の過密なダイヤに慣れている人間にはそう感じないのかもしれないけど
少なくとも地方の鉄道、しかも非電化路線でディーゼル式機関車が走ってるような
有人駅より無人駅の数の方が圧倒的に多いローカル線沿線出身の人間にとって
鉄道と言うものはここではないどこかへ連れて行ってくれる、ある種「ケ」(現実)からの
脱出装置としての意味を帯びると言うことは是非理解しておいて頂きたい。
中学時代。地元の高校に通うのが嫌で終点である県庁所在地の高校を
受験する人間がなんと多かったことか。電車通学=ステイタスという倒錯した状況。
それが田舎。非都会=非東京として存在する地方の一面なのですよ。いやはや全く。



随分と話が反れましたが、昨年発売の小川一水の最新作を読了いたしました。
タイトル通り鉄道SFモノ。とは言っても登場するのはリニアや真空中チューブ内を走る
未来運送システムではなくて、19世紀の偉大な発明・蒸気機関車であります。
世界観が20C初頭に近いからSFというよりも空想科学小説と言った方がしっくり来る感じ。
文系脳ということでことメカニックに関してはイオンジェットエンジン太陽風帆船と同程度に
ブラックボックスが多い存在として蒸気機関車を見れたのは幸か不幸か。…幸かな。
本作でも小川氏のメカとそれの存在する場、そしてそれに関わるキャラクター描写の
巧みさは健在。作品の肝である装甲車両って概念も個人的には面白かったッス。
ここ最近の小川小説は舞台設定先行型だと思うんですよ。まずは綿密な世界観を設定して
その上でキャラクターが立ち回らせる、立ち回らないを得ない状況を作り出すと言うか。
復活の地や老ヴォールがその典型例。これらはそれプラスでSF的どんでん返しが有って更に○。
今回はそのどんでん返しがあんまり無かったのがなぁ。黒幕もベタと言えばベタだし。
あとご都合主義的な展開が多いのも否めない。それはそれで味なのかもしれないけどさ。
むしろセカイ系ライトノベル全盛の時代において、自分から行動し成長する主人公が動き回る
昔ながらのヤングアダルト小説の王道を歩いていることが逆に新鮮で意義深いんじゃなかろうか。


そういった意味では鉄道、しかも蒸気機関車を作品の中心に据えるたってのは
逆説的な「新しさ」を出そうと言う小川さんの意図に拠るものなのかもね。温故知新。
つまりは過去と現在と未来はレールによって時間的、空間的に接続されているのですよ。


鉄道の旅も有りだよなぁ。ローカル線無人駅の灰色がかった寂しさたるや。
と言う訳で本駄文は鉄オタの良蔵さんに捧ぐ。